製造業と遠隔監視

基本(IoT導入編)

前回の記事にて、遠隔監視における最適な手法は導入のし易さや拡張性などの観点で言えば

クラウドサーバー×携帯回線

のメリットは大きいと記載しました。詳しくは下記記事を参照下さい。

遠隔監視の手法
前回の記事では、「遠隔監視」をテーマとして具体例などを記載しました。ここでは実際に遠隔監視を実現する手法について記載します。 遠隔監視の手法 ここでは遠隔監視の手法について、それぞれの課題と共に説明します。遠隔監視を構築する上で最初に考...

ただ、「クラウドサーバー×携帯回線」などを利用した遠隔監視が製造業において普及しているかというと、課題が多くまだまだ普及しいてないのが現実です。

では、なぜ普及していないのか、について解説します。

目次

遠隔監視の実現における課題

課題の内容や大きさは会社ごとに様々ですが、主には以下のような課題があることが多いです。

  • 技術要素が多岐に渡る
  • 仕様決めに時間が掛かる
  • 維持・メンテナンスや改善コストが掛かる

これらについて順番に見ていきたいと思います。

課題①:技術要素が多岐に渡る

クラウドサーバーを使った遠隔監視システムを立ち上げようと思った際には、複数の技術を組み合わせる必要があります。

例えば、「PLCからラズパイでデータを収集し、クラウド上のダッシュボードで見える化するシステムを構築する」、という例を考えてみましょう。

この場合、以下のような技術要素が必要になります。

スライド1

・組み込みエンジニア領域

PLCから通信を介してデータを収集し、クラウドにデータを送信する部分になります。具体的には、ラズパイ内の実際のプログラムを組む部分になります。

PLC側の通信プロトコルに合わせてRS232やRS485、Ethernet通信などを使って値の収集を行い、HTTPなどを使って指定されたクラウドのデータベースにデータを送信する、というのが表面上のハード/ソフト設計・実装部分になります。

ここで注意しないといけないのは、実際の現場での運用を考えた場合、異常が起きた時の処理や、Wi-Fiや携帯回線が不安定になった場合のデータの欠損対策などを同時に設計しておく必要があります。

少し話が細かくなりますが、ラズパイはLinuxベースのOSで動かすことが多いため、基本的にはシャットダウン処理が必要です。一方で、産業用機器は急な瞬断が発生してもシステムが異常をきたすことが無いような電断処理が含まれていることが一般的です。

他にも、データのバックアップ処理など、長期で安心して使えるような高い信頼性を持たせており、こういった機器と同等の信頼性が組み込みハードウェア/ソフトウェアに求められます。

・バックエンドエンジニア領域:

ラズパイから送信されたデータをため込むサーバを構築する部分になります。具体的には、各社クラウドシステム(AWSやAzureなど)のサービスを契約し、自社用にシステム構築します。

クラウドやサーバに関する知識が必要なのはもちろんですが、ここで求められるのは前述の組み込みエンジニアや、後述するフロントエンドエンジニアとの橋渡しの部分になりますので、収集したデータをどのようにサーバに蓄積するか、といった点が重要になります。

また、組み込みエンジニア領域との狭間の部分において、場合によっては常時ラズパイと正しく接続出来ているかの確認(キープアライブ)が必要になるケースもあります。

そして、最も大事なセキュリティ対策もここで求められます。ラズパイからどのように暗号化されたデータを送信してもらうか、という点や、蓄積されたデータ自体にどのような保護(認証システムなど)を施すか、が必要になります。

・フロントエンドエンジニア領域:

クラウドのデータサーバに溜まったデータをわかりやすく見える化する部分になります。一般的なのはBIツールのようなイメージで、ブラウザ上にダッシュボードを作成し、PCやスマホ、タブレットからでも見えるようにする、というものです。

他にも、見える化以外に溜まったデータをCSVで出力したり、元々あるシステム(SCADAやDCSなど)に結合したりすることもあります。

ここで大事なのは、実際に使用する管理者や作業者が最も気にする部分なので、要求通りに作成したとしても、運用していく中で修正・改善点などが新たに発生することがほとんどです。

以上、長々と説明した通り、「PLCからラズパイでデータを収集し、クラウド上のダッシュボードで見える化するシステムを構築する」という要求に対して、複数人のエンジニアが必要になる、ということがご理解頂けるかと思います。

これらのエンジニアを全て社内で確保するのは難しく、一部または全部を外部に委託するケースがほとんどです。

課題②:仕様決めに時間が掛かる

複数の領域においてエンジニアが多数存在する場合、非常に難易度が高いのが「仕様決め」です。

現場からの要求を全て吸い上げて仕様検討しようとすればするほど、システム全体の規模が大きくなりがちです。

また、上記エンジニア以外にも、実際には会社の情報システム部門などとの調整が必要になることが多く、会社のセキュリティポリシーの観点から、要求をそのまま仕様に落とせない、といったケースも多々あります。

結果として、現場からの要求を吸い上げた後に内容を取りまとめ、仕様に落とし込んでいくまでに非常に時間が掛かります。

仕様が決まった後も、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド、サーバなどそれぞれ技術要素の設計、実装を進めたあと、システム全体の結合テストを行って、ようやく運用開始、となります。

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この過程において、仕様が膨らんで当初の予算と合わなくなっていたり、逆に予算を抑えた結果当初の要求を十分に満たせないシステムが完成してしまったため、うまく運用できない、ということになりかねません。

課題③:維持・メンテナンスや改善コストが掛かる

システムを導入した後は、当然ながら維持費用が掛かります。サーバーやBIツールなどのクラウド契約料の他に、携帯回線を使用する場合は通信料なども掛かってきます。

また、問題が生じた際の対応や、周囲環境の変化におけるメンテナンス費用、運用していく中での改善コストなども掛かってきます。

ネットワークやクラウドサービスは日々の進化も早く、その分仕様や機能など、サービスのアップデートも頻繁に行われます。内容によっては、こういった変化に対して社内のシステムを変更せざるを得ないこともあります。

まとめ

こういった課題に直面していく中で、結局費用対効果に合わなかったり、コミュニケーションコストが障壁となり、導入が進まない、というのが現実です。

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但しその一方で、IoTや遠隔監視をうまく導入し、運用出来ている事例があるのも事実です。

ここまで、3回にわたって『遠隔監視』の観点から基本知識、実現手法、課題について記しました。今後は、IoTを実現するための便利な商品や使い方、導入の事例などを紹介していきたいと思います。

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